2010年7月18日日曜日

『命と向き合うデザイン』 

 再生医学−2



再生医学は,元々,肝不全の子供達への移植肝臓不足を改善するため,肝細胞を増殖し,肝移植に利用したことに端を発しますが,その成長には大きくは二つの研究分野の進歩が関わっています.一つは基礎生物医学研究であり,そして,もう一方が上述した生体組織工学です.前者の目的は,幹細胞・細胞増殖因子・細胞外マトリックスの研究を通して,再生現象を正しく理解することです.特に近年になって,ヒトの組織・臓器中にも,高い増殖・分化能力を持つ幹細胞が存在していることがわかってきました.2004年に発見されて以来,積極的に研究されている胚性幹細胞(ES細胞)や,2006年に4遺伝子によって樹立することが明らかになり,以降,世界中で研究が活発化しているiPS細胞に関する研究もここに含まれます.後者の目的は,再生誘導の場を構築することです.バイオマテリアルと呼ばれる分野が研究の中心であり,生体安全性・生体適合性の高い素材の研究・開発が行われています.バイオマテリアルと一口にいってもその領域は非常に幅広いです.人工歯根などから人工関節,人工血管等まで生体に移植する材料全般を指す言葉として用いられいています.しかし,特に再生医学におけるバイオマテリアルとは細胞や組織の足場になる部分を指すことが多いようです.
ここで,細胞が再生する原理を考えます.ある空間で細胞が生存していくためにはその周辺環境との関係が重要です.一般に細胞増殖因子・細胞外マトリックスと呼ばれているものが周辺環境を構築しています.また,これらの素材が細胞の増殖や分化を制御しています.よって,高い増殖能力を有する幹細胞があったとしても,周辺環境である細胞増殖因子などが適切な状態でない限り,細胞の再生は望めません.細胞が培養・分化しやすい足場をいかに構築するか,ということを研究するための分野として生体組織工学があります.つまり,高い増殖・分化能力を有する細胞そのものの研究と,細胞が成長するための環境の研究の両方が進歩することによって,再生医学は現実的な研究として成長し,再生医療として現場への応用が可能になります.

・筏義人: 患者のための再生医療, 米田出版, 2006
・筏義人: 再生医工学, 化学同人, 2001
・田畑 泰彦: 再生医療のためのバイオマテリアル, コロナ社, 2006
・Takahashi K, Yamanaka S: Induction of pluripotent stem cells from mouse embryonic and adult fibroblast cultures by defined factors. Cell 126: 663-676. PMID 16904174. 2006.
・Nakagawa M, Koyanagi M, Tanabe K, Takahashi K, Ichisaka T, Aoi T, Okita K, Mochiduki Y, Takizawa N, Yamanaka S: Generation of induced pluripotent stem cells without Myc from mouse and human fibroblasts. Nat Biotechnol 26: 101-106. PMID 18059259. 2008.
・Takahashi K, Tanabe K, Ohnuki M, Narita M, Ichisaka T, Tomoda K, Yamanaka S: Induction of Pluripotent Stem Cells from Adult Human Fibroblasts by Defined Factors. Cell 131: 861-872. PMID 18035408. 2007.
・Strelchenko N, Verlinsky O, Kukharenko V, Verlinsky Y. (2004). “Morula-derived human embryonic stem cells.”. Reprod Biomed Online. 9: 623-629.