『命と向き合うデザイン』 

 再生医学と制度−1


日本では医薬品および医療機器としての承認を得るため,薬事法に則った治験を行い,その有効性と安全性を確認する必要がある.医学において,人を対象とした介入研究は一般的に臨床試験と呼ばれ,その中でも新薬の承認などのために企業が行う臨床試験を治験と呼び,薬事法の第2条第16項には「承認申請において提出すべき資料のうち、臨床試験の使用成績に関する資料の収集を目的とする試験」と規定されている.2002年に薬事法が改正,2003年より試行され,医師・医療機関主導による治験が行いやすくなった.未承認の医薬品・医療機器を適応する方法としては,医師の裁量の下で行われる臨床研究もあり,これは薬事法に則る必要はない.2009年における世界の治験状況を見ると,再生医療が広範な疾患に適応されており,40社程度の企業から100件程度の治験が実施されている.実施件数は増加しているが,必ずしも好成績を収めているわけではない.クローン病に対する骨髄由来間葉系幹細胞製剤の治験は中止になった.その中でも,Geron社(米国カリフォルニア州)は,FDAに治験薬申請していた「ヒトES細胞由来オリゴデンドロサイト前駆細胞 "GRNOPCI" を急性脊髄損傷患者に異所高治療する治験」の承認を獲得し,ヒトES細胞由来細胞を用いたPhase 1臨床研究開始が決定した.技術の未成熟さやビジネスリスクの高さから,新薬開発はベンチャー企業が行う場合が多い.独立行政法人医薬品医療機器総合機構によると新薬の審査期間は米国で平均10ヶ月であるのに対し,日本では平均22ヶ月を必要としている.ベンチャー企業は強固な財務体質を有していないことが多く,審査期間が長期におよぶ場合,企業を維持していくことが困難である.しかし,細胞を利用した生物製剤はウイルスの混入による薬害の問題があるため承認には慎重にならざるを得ないという現実がある.

・中辻憲夫, 中内啓光: 再生医療の最前線2010, 羊土社, 2010
・土屋利江編, 医療材料・医療機器—その安全性と生体適合性への取り組み—, シーエムシー出版, 2009

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