『命と向き合うデザイン』
人工心臓−1
末期の重症心不全など,重篤な心疾患に対しては,従来2つの治療が行われてきた.心臓移植手術と人工心臓埋込術である.前者は,他者の心臓を患者に移植する方法であり,心臓の提供者,つまりドナーが必要である.しかし,心臓が健康な状態で生命維持が困難である状態を生体の死と認めることは未だに難しい問題であり,倫理的な課題が多い.また,提供心臓の数が患者の数に対して絶対的に少なく,登録を行ってから,実際に移植手術が行われるまでの時間が非常に長期におよぶ.加えて,心臓そのものが虚血状態に弱い臓器であることも問題である.心臓は,血流を止めて心停止保存液を入れた状態にしてから,移植が行われるまでの時間が4時間を越えると使用できなくなる.そのためドナーと患者の搬送距離が問題になる.一方後者は,人工的に製造された心臓を患者の胸部に埋め込む方法である.埋込方として心臓を取り出して埋め込む方法と,心臓は残したまま補助的な機器を埋め込む方法がある.現在,完全に体内に埋め込むことができる完全人工心臓は開発が成功していないという問題があり世界各地で日々開発が行われている.また,人工臓器だけではなく,他の臓器移植全般にもいえる問題として,移植した生体への適合性に関することがある.他者の心臓や人工心臓を患者に埋め込む場合,受け入れる生体側で拒絶反応が起こることがある.一般的に生体適合性の問題と呼んでいるが,せっかく移植しても適合できない場合,その臓器は取り打さなければいけなくなる.このように後者の人工臓器に関しても未だ問題はあるが,開発が成功した場合,心臓移植手術で生じている問題を,全て回避することができるという点で以前より開発が続けられている.
・南淵 明宏, 心臓は語る, PHP研究所
・磯村 正, 治せない心臓はない, 講談社
・東嶋 和子, よみがえる心臓―人工臓器と再生医療, オーム社
・日本人工臓器学会, 人工臓器は,いま―暮らしのなかにある最先端医療の姿, はる書房
・許俊鋭, 斎藤明, 赤池敏宏: 人工臓器・再生医療の最先端, 寺田国際事務所/先端医療技術研究所, 2006