『命と向き合うデザイン』 

 人工心臓−4


人工心臓に必要な5つの機構の中でもポンプ部は血流発生という点で重要であるばかりではなく,設計の困難性が高い要素という意味でも重要である.人工心臓に用いられているポンプの機構は主に2つに分類できる.一定量の血液を一定のタイミングで拍出する拍動型ポンプと,絶えず一定量の血液を流し続ける連続流型ポンプである.拍動型ポンプとは,空気圧などを利用してダイアフラムやプッシャープレートを移動させ,血液室容積の変化により拍動流を発生させる方法であり,血液の流入・流出部には,逆流防止弁が装着される.一方,連続流型ポンプとは,インペラ(羽根車)やコーン(円錐)を高速回転させ,発生した遠心力・揚力によって,持続的に血液の移送を行う方法であり,無拍動流とも呼ばれる.当初は自然心の模倣として,拍動型から研究が始まったが,現在ではポンプ機能の効率が優れている点と,機器全体を小型することが容易であることから,連続流型の研究が中心になっている.ただ,連続流型ポンプは,高速回転によって発生する摩耗にともなう耐久性の問題と,回転軸周囲に血液を巻き込むことで生じる血液細胞破壊という二つの問題を有している.特に細胞破壊はモーターの動作負荷を増大させ,モーター内部で想定以上の熱が発生し,人工心臓の筐体破損事故が発生する場合がある.その問題解決を行うため,現在,テルモ株式会社(本社:東京都渋谷区)の子会社であるテルモハート社(本社:米国ミシガン州)が2009年より日本国内での製造申請を行っている人工心臓がDuraHeartである.これは,磁気浮上型遠心ポンプ方式と呼ばれる方式を採用することで連続流型の問題を解決している.具体的には遠心ポンプ内で回転しているインペラを磁気の力で浮き上がらせ,その状態で回転させる,というものであり,1つ目の問題である回転軸の摩耗という耐久性,および2つ目の血液破壊と熱の問題を回避している.すでに欧州では2007年の2月にEU指令の求める要件を満たして認証であるCEマークを取得しており,同年8月から販売を開始している.DuraHeartは体外に電池部と制御部を設けており,ケーブルを介して体内のポンプ部分と結合している.電池部は約2kg程度で肩からバッグのようにさげることができるようになっている.日本人が中心に開発している人工心臓ともう一つEVAHEARTがある.こちらも連続流型の補助人工心臓であるが体外にコントローラと呼んでいる電池部と制御部を設けている.こちらはビジネスキャリーのように引く形式をとっているが,DuraHeart,EVAHEARTともに,体内における問題解決とともに,体外に設置される要素に対する配慮にも長けており,これは人工心臓導入の目標実現に有効に働くと考えられる.

・南淵 明宏, 心臓は語る, PHP研究所
・磯村 正, 治せない心臓はない, 講談社
・東嶋 和子, よみがえる心臓―人工臓器と再生医療, オーム社
・日本人工臓器学会, 人工臓器は,いま―暮らしのなかにある最先端医療の姿, はる書房
・許俊鋭, 斎藤明, 赤池敏宏: 人工臓器・再生医療の最先端, 寺田国際事務所/先端医療技術研究所, 2006

このブログの人気の投稿

『命と向き合うデザイン』 

 "形而上と形而下"

風で飛ばない秋桜

『命と向き合うデザイン』 

 新・デザインについて−4