『命と向き合うデザイン』
背景−6
デザインと産業の関係は歴史から見ることができます.近代産業の歴史は産業革命から始まります.19世紀の産業革命以降,家内制手工業から工場制機械工業への変革が起こり,少品種大量生産の時代が続き,現代はインターネットを中心とした情報革命に支えられた多品種少量生産時代へと移行しています.産業革命における工学的な技術革新の歴史は言うに及びませんが,近代デザインもまた,産業革命を一つの契機としています.革命以前から重視されていた職人の手による造形は,革命以降に生まれた規格化・標準化という流れの中でも消えるかと思われましたが,逆に,同時期に生まれた新素材・新成形技術・新生産方法に立脚したかたちで,造形の美と新技術を兼ね備えた製品づくりとしてデザインが発達しました.そして,必然的にデザインは素材から生産方法までを含めた製品の全体管理を包括する領域へと成長しました.20世紀に入り,デザインはバウハウスというかたちで教育の立場を得ます.それまでの師弟関係による直線的なつながりから,デザインが一つの「論」として体系づけられ,一般性を有して広く展開されることになりました.現代では,デザインという単語は例えばグランドデザインやキャリヤデザインなど,さまざまな領域で用いられています.これはdesignという言葉が持つ「計画」と「意匠」という二つの意味がどちらかに偏ったかたちで認識された結果です.しかし,根本にあるのは産業革命以降に確立したせ「製品または商品として企画・計画から,素材や回路・機構までを含めた詳細な製品設計・意匠にいたるまでの全体管理」という考えであり.産業に密接に関係した領域であることが分かります.このように産業に対してデザインが果たして来た役割は大きく,工学の持つ根源的な技術に,ある部分で支えられながら,互いの短所を補いつつ,長所を伸ばしあいながら成長してきたと言えます.
・ニコラス ペヴスナー, モダン・デザインの展開―モリスからグロピウスまで, みすず書房
・柏木 博, デザインの20世紀, NHKブックス, 日本放送出版協会