『命と向き合うデザイン』
背景−7
デザイン医工学として,医学+工学の関係でデザインが入ることは,医学の知見を工学の技術を使って産業化することだけが目的ではありません.産業化はあくまでも結果です.産業革命期にデザインが発達できたのは,新技術に立脚した製品設計を造形とともに行えたことによるところが大きいです.このように,医学的知見と工学的技術に立脚した製品設計を造形とともに行うことが本来の目的であると考えるならば,デザイン医工学という領域も同様に考えられます.ここで,デザイン医工学の特徴が顕著に表れている例を挙げます.川崎らと阿部らによる,全置換型人工心臓「KAWASAKI G5-MODEL(UPTAH5)」です.全置換型人工心臓の開発に残存している問題の一つである熱排出に対して,デザインの立場から解決方法を提示し研究を進めています.そのためにデザイナーが生物学的問題点を把握し,機器内部の回路や機構設計までを行い,製品化に向けて進めています.現在は実際に山羊に埋め込む形で動物実験を行っており,結果を受けて段階へと移行します.このように,単なる加算法的な研究ではなく,相互に関係性を強めながら問題解決を行っていくことがデザイン医工学の姿であると考えます.
・小川貴史, 金谷一朗, 川崎和男, 阿部裕輔, 磯山隆, 斎藤逸郎:「人工心臓コンセプトモデル”Kawasaki G5-model”の設計」,東京,第48回日本生体医工学会大会,2009.4.24