『命と向き合うデザイン』 

 新・再生医学について−1


薬物を用いる治療は、さまざまな治療法の中でも最も一般的です。しかし、著しい組織の欠損など不可逆的に人体の内外が損傷を受けた場合には医薬品でできる治療には限界があります。そういった疾患に対して従来は、臓器移植や人工臓器埋込術といった方法が用いられてきました。ところが、前者に関しては供給される臓器数・ドナーの数に限りがあることや、倫理的問題が残存しています。また、後者に関しては対象臓器によっては、未だ十分な機能・性能が得られていないという現実があります。さらに両者に共通して言えることは生体適合性の問題です。臓器移植では、親近者同士であっても免疫抑制剤が必要であり、その副作用による影響も無視できません。一方、人工臓器埋込術では、異物に対する防護機構として血栓形成・免疫応答・炎症反応・排除反応などの可能性、機器そのものの機能低下が懸念されます。
 これらの短所を補う形で進められて来たのが再生医学であり、その研究成果を臨床応用してきたのが再生医療です。再生医学とは、工学的に再構成した細胞や組織を用いて治療する研究を行う学問と言われています。具体的には、まず、患者から細胞や生体組織を採取し、それを工学技術や方法論を用いて培養・増力します。同時に生体側に対して、組織の生体誘導を手助けするための環境をつくり与えます。培養した細胞または組織を、設定した箇所に移植することで、生体側の再生能力を発揮させ治癒を促す研究・治療のことです。その目的を端的に表すと「著しく損傷したり失われたりした生体組織と臓器の治療のために、細胞を用いてその生体組織と臓器を再生あるいは再構築する技術の確立」と言えます。類似の名称として再生医療・再生医工学などといった名称も用いられていますが、対象領域はほぼ一致しています。ただし、再生医学が基礎生物学医学研究の発展を目的としているのに比べ、再生医療はあくまでも直接患者の治療に活用することを目的としています。訳語の元になった用語は「Tissue engineering」であり、日本語の直訳が「生体組織工学」であることからもわかるように、生体組織を対象とした工学的内容を強く持つ分野ですが、2010年現在の再生医学はこれに加え、幹細胞生物学など基礎生物医学研究の内容も含まれています。

・筏義人: 患者のための再生医療, 米田出版, 2006
・筏義人: 再生医工学, 化学同人, 2001
・田畑 泰彦: 再生医療のためのバイオマテリアル, コロナ社, 2006

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