『命と向き合うデザイン』 

 新・再生医学について−4


一般に、再生の研究においては、プラナリアの研究が盛んに行われます。プラナリアは無脊椎動物の中で最も高い再生能力を持つと言われているため、再生医学に関する研究対象として非常に適していると考えられるているからです。その研究からプラナリアの再生メカニズムはおおよそ以下のような流れがあることがわかっています。1)傷口の修復。2)再生芽の形成。3)不足部分の先端の形成。4)頭から尾までの身体の領域性の再編成。5)必要な細胞の供給。ここで言う身体の領域性とは身体の位置情報のことです。多細胞生物が個体を形成する場合、まず、形成する場所の座標をつくり、その座標に沿って幹細胞を制御し、形と機能をつくりあげていく、というプロセスが存在します。つまり、まず損傷箇所の図面を作成し、必要な部材を構築・配置する流れになっており、効率の良い工学的な流れを過程を経て再生されることがわかります。
無脊椎動物の代表はプラナリアでしたが、一方、脊椎動物の中で最も高い再生能力を持つ生物は、イモリです。脊椎動物の中で最も高い再生能力をイモリは、尻尾や手足だけではなく、顎や脳、眼、心臓などの組織や臓器の一部を再生できます。このイモリに関する研究から、以下の2点が明らかになっています。1)多細胞生物の各細胞は、受精卵から分化した後も全ての遺伝子情報が保存されている。2)分化した細胞でもリプログラミング(殖細胞や体細胞など分化の進んだ細胞が多能性や全能性を再獲得すること)可能である。一度分化した細胞は脱分化を行い、元の形質を失った状態になります。そして目的の細胞へと改めて増殖・分化を行っていきます。このことから脱分化した細胞も幹細胞と同様の性質を有している可能性があることが示唆されています。このように再生に用いられる細胞は「幹細胞由来」か「分化細胞由来」ということになりますが、分化細胞の脱分化を幹細胞へのリプログラミングと考えると、結局は幹細胞由来と言えます。ヒトのような多細胞生物の再生に関する治療を考える場合、細胞の分化状態をどのように制御するか、ということが極めて重要になってきます。リプログラミングは従来は核移植を行うことでしか実現できなかったからです。

・阿形清和他: 再生医療生物学, 現代生物化学入門7, 岩波書店, 2009
・田畑 泰彦: 再生医療のためのバイオマテリアル, コロナ社, 2006

このブログの人気の投稿

『命と向き合うデザイン』 

 "形而上と形而下"

風で飛ばない秋桜

『命と向き合うデザイン』 

 新・デザインについて−4