『命と向き合うデザイン』
新・再生医学について−5
ここで、iPS細胞を考えてみますと、その作成に関して「転写因子の遺伝子発現を制御することで、細胞の分化状態を人為的にコントロールできることを初めて示した」という功績が大きいと言えます。従来は核移植でしかリプログラミングできなかったことを、4つの遺伝子を操作するだけで可能にしたのです。このことから再生医療を実現していく上で重要なコトとして、1)細胞の分化状態を分子レベルで理解する。2)位置情報の制御が行える。の二つがある、と考えられているます。具体的に幹細胞を用いるとどのようなことができるのかを見てみます。脊椎動物は受精後、卵割を繰り返すことで細胞数を増やし胞胚期に達します。この時の胚の一部につくられるのが未分化細胞塊であり、それを培養したものが胚性幹細胞、つまりES細胞です。両生類は受精後9時間で胞胚期を迎え、未分化細胞ができます。1)未分化細胞を取り出し、2)カルシウムをのぞいて、3)細胞をばらばらにする。4)100mg/mlのアクチビンを加え、5)1時間処理し、6)再びカルシウムを加えて、7)凝集塊をつくる。8)3日後には拍動する心臓が生まれます。9)血清を加え、10)10日間培養すると、11)活動電位のある、1心室2心房の心臓ができます。
ここで、改めて幹細胞を整理します。まず、幹細胞とは「異なる機能を持つ複数の細胞へ分化する能力(多能性)と、自己増殖を続ける能力(自己複製能)を持った未分化な細胞」と定義されています。さらに幹細胞は分化能力によって分類できます。まず、一個の細胞から身体を構成する全ての細胞に分化できるのは受精卵であり、全能性幹細胞と呼ばれます。これに対して、身体を構成する全ての細胞への分化能を持つが、一個の細胞単独では個体発生を起こせないものを多能性幹細胞と呼びます。ES細胞(embryonic stem cell)と呼ばれるものはこの多能性幹細胞の一種で、初期胚から樹立された胚性幹細胞です。さらに、2007年にヒトの皮膚由来線維芽細胞に多能性維持に関する4つの遺伝子を組み合わせて導入することで多能性を獲得した人工多能性幹細胞、iPS細胞(induced pluripotent stem cell)が樹立されました。ES細胞とiPS細胞の最も大きな違いは、iPS細胞が初期胚のような未分化な細胞ではなく、分化の進んだ細胞からでもリプログラミングを行うことで、幹細胞としての機能を獲得している点です。現在の再生医学は、この二つの細胞によって牽引されている部分が少なくありません。
・浅島誠, 阿形清和, 山中伸弥, 岡野栄之, 大和雅之, 中内 啓光: 再生医療生物学, 現代生物化学入門7, 岩波書店, 2009
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・筏義人: 再生医工学―基盤技術の確立と臨床応用をめざして, 化学同人, 2001
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