『命と向き合うデザイン』 

 新・再生医学について−6


再生医学は幹細胞生物学である基礎生物医学研究と、生体組織工学からなっています。後者の組織工学は1980年代後半の米国で提唱されましたが、元になった動物細胞培養に関する研究は19世紀の初頭からあったものです。ここで言う組織とは「分子から個体にいたる生物の階層性の中で細胞と臓器の間に位置しています。細胞ー細胞間接着により連結した複数の細胞と細胞間隙を埋める固相成分である細胞外マトリックスからなる。」と言われています。骨や軟骨、真皮などは、そのほとんどが細胞外マトリックスによって形づくられています。一方、心臓や肝臓といった実質臓器は、細胞を主成分とし、細胞外マトリックスは細胞間の微細な間隙にのみ含まれています。元々、細胞を用いた治療は注射針を用いて細胞懸濁液を注入する方法がとられていました。今でも一般的に残っているものとして、輸血が挙げられます。輸血は、組織構造をもたない末梢血の血管内への移植と言えます。細胞移植としては、骨髄中の造血幹細胞移植をはじめとして間葉系幹細胞移植、末梢血単核球細胞移植、自己骨格筋筋芽細胞移植などが臨床応用されています。しかし、肝硬変や重症心不全といった正常組織構造が3次元的に損失している疾患に対して筋芽細胞の細胞懸濁液を注射した場合、移植率はわずか10%程度でした。また、移植した細胞が正着せず、目的の場所に固定しなかった場合、細胞懸濁液は血管を伝い、脳梗塞などの合併症を引き起こす危険がありました。例え正着しても、縞状になり、3次元的な臓器を回復するのは困難でした。さらに、細胞を心臓に移植する場合、注射針によって心筋を侵襲することになります。これによって不整脈などが発生しました。これらの問題を解決するため、組織を再構築するための新しい細胞培養方法が考え出されました。

・Shinichi N: 再生医学の可能性. 日本外科学会雑誌. 103(臨時増刊). 29. 2002.
・浅島誠, 阿形清和, 山中伸弥, 岡野栄之, 大和雅之, 中内 啓光: 再生医療生物学, 現代生物化学入門7, 岩波書店, 2009

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