2010年8月24日火曜日

『命と向き合うデザイン』 

 新・再生医学について−3



細胞が再生する状況を考えます。ある空間で細胞が生存していくためにはその周辺環境との関係が重要です。一般に細胞増殖因子・細胞外マトリックスと呼ばれているものが周辺環境を構築しており、同時にこれらの素材が細胞の増殖や分化を制御しています。よって、高い増殖能力を有する幹細胞があったとしても、周辺環境である細胞増殖因子などが適切な状態でない限り、細胞の再生は望めません。細胞が培養・分化しやすい足場をいかに構築するか、ということを研究するための分野として生体組織工学があります。つまり、高い増殖・分化能力を有する細胞そのものの研究と、細胞が成長するための環境の研究の両方が進歩することによって、再生医学は現実的な研究として成長し、再生医療として現場への応用が可能になります。
次に、細胞の再生原理を詳細に観察します。生物が行っている再生の方法は2種類に分類され、それぞれを代表する生物がいます。1)再生の種となる細胞である「幹細胞」を準備して、高い再生能力を発揮している生き物(プラナリアなど)=幹細胞利用。2)既存の細胞を一旦「リプログラミング」してから必要な細胞をつくって再生を実行している生き物(イモリなど)=細胞のリプログラミング利用(iPS細胞)。細胞の中でも、最もさまざまなモノに分化できる細胞は受精卵です。受精卵から分裂して色々な種類の機能に分化した細胞を分化細胞と呼びますが、受精卵はあらゆる種類の分化細胞を生みだすことができます。一般に多細胞生物は成長とともに細胞の数を増やし、個体として機能するために必要な種類の細胞をつくる必要があります。幹細胞はその特徴として、多分化能と自己増殖能を併せ持つため、多細胞生物の成長にとって必要なことを同時に行うことができます。しかし、幹細胞は分化するにしたがって、やがて全て分化細胞に変わり、成体になると幹細胞としての機能はほとんど失われ、一部の組織に組織幹細胞が残るのみになります。受精卵から分化するしばらくの間は全能性幹細胞の状態を維持したまま増殖します。この状態の細胞を胚から取り出し、全能性状態を維持したまま培養した細胞がES細胞です。

・阿形清和他: 再生医療生物学, 現代生物化学入門7, 岩波書店, 2009
・筏義人: 再生医工学, 化学同人, 2001
・田畑 泰彦: 再生医療のためのバイオマテリアル, コロナ社, 2006