『命と向き合うデザイン』 

 新・再生医学について−12


2009年の時点で製品化されている再生医療用細胞は皮膚・関節・角膜に限定されています。日本では再生医療製品は「ジャパン・ティッシュ・エンジニアリング」の自家培養表皮「ジェイス」が、重症熱傷用治療薬として2007年製造販売承認、2008年薬価収載された1件のみです。それに対して、世界に目を向けるとGenzyme BioSurgery社などは人工皮膚のEpicelと軟骨のCarticelを販売し、人工皮膚および軟骨関連でそれぞれ10以上の製品が販売されています。ここまで見てきたように、再生医学として研究された対象を再生医療製品として実際に医療現場で用いられるためには、いくつかのフェーズが必要です。1)まず、再生医学の研究対象を用いて医師の采配の下、臨床研究を重ね、2)その中から可能性のあるものを製品化し、治験に進める。3)治験を終え、承認された対象は一般的に使用されるため、商品化される必要があります。商品となって初めて薬価収載され、さまざまな医療施設において一般的な患者に使用されることになります。この流れはつまり、研究対象は産業化されなければ医療に活用できる価値を持たないことを意味しており、このこと自体は従来の医薬品や医療機器と同様です。しかし、再生医学ではその価値を持つための販売対象が、従来医療とは異なります。 従来医療では、製造者は製剤・医療機器そのものを製品として販売しており、その製剤や医療機器が医療機関において目的の機能を果たすことが求められていた価値でした。これが再生医療では販売対象は製剤そのものではなく、製剤を医療機関内で製造するための医療機器になります。まず、一つ目の価値として、購入した医療機器を用いて目的の製剤を製造できる、ことが挙げられます。そして、二つ目の価値として、その精製された製剤を用いて治療を行えることが挙げられます。この二つが成立して初めて価値が生まれることになるのです。

・神山祥子: 医学のあゆみ, 229, 914-919, 2009
・小清水右一: 医学のあゆみ, 920, 920-924, 2009
・読売新聞: 2009年11月1日, 朝刊, サイエンス蘭
・独立行政法人医薬品医療機器総合機構: 第2期中期計画に向けた論点について<審査等業務・安全対策業務関係>, 2009

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