2010年9月3日金曜日

『命と向き合うデザイン』 

 新・細胞シート工学−1



生分解性高分子などによる足場を用いず、細胞が互いに接着することでシート状になっているものを細胞シートと呼び、細胞シートを研究対象とする分野を細胞シート工学と呼びます。細胞シートの作成には温度応答性高分子であるN-イソプロピルアクリルアミド(PIPAAm)を表面に修飾した培養皿が用いられます。PIPAAmという物質は水中で相転移温度を持ちます。相転移温度を持つとは、ある温度を境に物質の相と呼ばれる「状態」が変化することを意味しています。このPIPAAmの相転移温度は32℃です。それ以上の温度になると高分子鎖が脱水和し、イソプロピル基間の疎水性相互作用により凝集して沈殿します(疎水性)。一方、32℃以下では水和し溶解します(親水性)。この性質により、温度変化によって修飾表面のぬれ性を制御可能になります。一般的な細胞の培養条件である37℃では表面は疎水性を示すため細胞の接着・伸展は良好です。この状態のまま、表面温度を32℃以下に下げることで表面が親水化し、細胞が自発的に脱着してきます。多くの細胞接着にはアミノ酸配列(アルギニン−グリシン−アスパラギン酸;RGD)が密接に関係していることが知られています。このRGDとPIPAAmを培養皿表面に修飾することで、細胞シートの培養から回収までを高効率で行える培養皿の研究が進みました。

・中辻憲夫, 中内啓光: 再生医療の最前線2010, 羊土社, 2010
・立石哲也, 田中順三: 図解 再生医療工学, 工業調査会, 2004
・阿形清和他: 再生医療生物学, 現代生物化学入門7, 岩波書店, 2009
・筏義人: 患者のための再生医療, 米田出版, 2006
・筏義人: 再生医工学, 化学同人, 2001
・田畑 泰彦: 再生医療のためのバイオマテリアル, コロナ社, 2006