2010年9月4日土曜日

『命と向き合うデザイン』 

 新・細胞シート工学−2



ここで原理を考えます。温度応答性高分子は相転移温度(32℃)以上で脱水和・収縮するため、アミノ酸配列(アルギニン−グリシン−アスパラギン酸;RGD)は表面に露出します。この時、細胞は細胞膜タンパク質であるインテグリンを介してRGDを認識し、培養皿に接着・伸展できます。一方、相転移温度以下では高分子鎖は水和・伸長するため、RGDは高分子層の中に埋もれ、細胞が認識しにくくなり結合が弱まります。こういった細胞接着に関するリガンド−レセプター間の作用は、抗原−抗体や酵素−基質間などのように体内でもさまざまな形で発現しています。通常、培養皿から細胞を取り出す場合、ディスパーゼなどのタンパク質分解酵素を用いて剥離するため細胞に障害を与える可能性がありました。一方、温度応答性高分子処理された培養皿を使用する方法では、細胞間結合と細胞自身が発現する接着タンパクのファイブロネクチンやラミニン5を維持したままシートを回収することができます。これらが生体糊の役目を果たすため、回収したシートはそのまま移植する組織の表面などに接着できます。シート同士も接着可能なため細胞シートを積層化することで三次元組織も構築可能です。積層化された組織はそれ自身が産生する細胞外マトリックスのみからなるため、生分解性高分子などを用いた足場を使用した際の問題点を回避することができます。

・中辻憲夫, 中内啓光: 再生医療の最前線2010, 羊土社, 2010
・立石哲也, 田中順三: 図解 再生医療工学, 工業調査会, 2004
・阿形清和他: 再生医療生物学, 現代生物化学入門7, 岩波書店, 2009
・筏義人: 患者のための再生医療, 米田出版, 2006
・筏義人: 再生医工学, 化学同人, 2001
・田畑 泰彦: 再生医療のためのバイオマテリアル, コロナ社, 2006