『命と向き合うデザイン』 

 新・人工心臓−2


人工心臓の歴史は、他の人工臓器に比べて長く、1937年にフランス人外科医のAlexis Carrelと大西洋単独無着陸飛行に世界で初めて成功したCharles Augustus Lindberghが「The Culture of Organs」を共同執筆し、その中で人工心臓の原型となる人工心肺の開発を記録しています。その20年後の1957年、世界初の体内に埋め込む人工心臓、全置換型人工心臓の動物実験が行われました。執刀はWillem Johan Kolffの指導のもと、阿久津哲造という日本人が犬に対して行い、1.5時間の生命維持に成功しました。そして翌年にはKusserrowにより補助人工心臓の最初の実験が行われました。つまり、人工心臓は、開発が始まってから、50年以上が経過していることになりますが、未だ完全な形では実現していません。日本では1990年に初めて国立循環器病センター型と呼ばれる製品が厚生労働省の認可を得ていますが、これは国立循環器病センターと東洋紡績社の共同研究でした。同時期には東京大学とアイシン精機・日本ゼオンが共同研究を行っており、開発当初から医学と工学が密接に関わりながら製品開発を行ってきた歴史があります。また、現在、国内外を問わず、治験など臨床試験において優秀な成績を上げている製品には、日本人や日本の会社が関係しているものが少なくありません。DuraHeart(テルモハート社)やEVAHEART(株式会社サンメディカル技術研究所・東京女子医科大学・早稲田大学・ピッツバーグ大学共同開発)等がその代表的な補助人工心臓です。これらはともに海外で治験を行っており、認可を得ているため現地では販売がすでに開始されています。しかし、日本での販売はまだ許認可がおりていません。これらはいずれも補助人工心臓ですが、全置換型人工心臓としては、米国のAbioCor(アビオメド社)が2006年より販売されています。この製品は予測患者寿命は60日間であり、余命30日未満と判断された患者にのみ使用が認められているという状況で、根治治療としての導入ではなく、あくまでも延命処置というところにとどまっています。

・南淵 明宏, 心臓は語る, PHP研究所
・小柳 仁, 心臓にいい話, 新潮社
・磯村 正, 治せない心臓はない, 講談社
・長山 雅俊, 心臓が危ない, 祥伝社
・桜井靖久: 医用工学MEの基礎と応用, 共立出版, 1980

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