2010年10月12日火曜日

『命と向き合うデザイン』 

 新・デザインについて−8



産業革命は産業医学の発達にも寄与しています。産業革命時の劣悪な労働条件では、労働者は作業関連疾患と呼ばれる症状を患うことが多かったと言います。当時、労働者は都市にあふれていたため、労働者が怪我や病気で業務を進めることに支障が発生した場合、即座にその労働者を解雇し、新しい労働者を雇用するという方法が効率的でした。しかし、低賃金による長時間労働や児童労働など、労働問題の深刻化を受けて、1833年に工場法が制定されます。これを受け、労働者の権利がある程度保証されるにいたり、彼らが業務を遂行するために必要最低限の環境を確保する必要が生じました。その中で、作業に関連した疾患を予防することで健康を維持しようと考えたのが、産業医学の始まりです。労働者を守るという視点ではなく、あくまでも産業資本家が損失を受けないことを目的としていましたが、疾患による解雇の可能性が減ったことと、最低限の健康を保証されたという点において、結果的には産業医学の発達は労働者の生活を守ることには役立ったと言えます。
産業革命を経て発達したこの学問領域は、1857年に生まれたエルゴノミクスという考え方に引き継がれます。元々は、労働の環境や機器をどのように設計すれば効果的に収益を上げることができるか、ということに注力された考え方でした。それが人間の身体的特性を把握し、疲労の軽減、動作効率の向上などにつながり、現在でいうところの人間工学の根幹を担う柱の一つになりました。一方、人間工学のもう一つの柱としてヒューマン・ファクターという考え方があります。これは第二次世界大戦時にアメリカで生まれた考え方で、飛行機のコックピットをどのように設計すればパイロットが操縦を間違わないか、安全に操作できるか、という実益が背景にあります。つまり、エルゴノミクスに比べ、認知特性など心理学の分野から人間工学に向かったと言えます。この考えは現代でも用いられSHELモデルなどを用いて分析されています。ヒューマン・ファクターは、やがてマン・マシン・インターフェイスやユーザ・インターフェイスという考えにつながり、エルゴノミクスとヒューマン・ファクターの二つが組み合わさり人間工学という表現で総称されることになります。

・人間中心設計(ISO13407対応)プロセスハンドブック
・伊藤 謙治, 人間工学ハンドブック, 朝倉書店, 2003
・日本機械学会, HCDハンドブック 人間中心設計, 丸善, 2006
・小松原明哲: ヒューマンエラー 第2版, 丸善, 2008