『命と向き合うデザイン』
細胞シートによる治療−2
細胞シート工学による治療における問題点をまとめてみます。再生医療全体にかかる問題点は以前もまとめました。このうち、細胞シート工学による心臓への治療と、対象を絞り込んだ場合、すでに臨床応用が始まっている点から、法的な問題に含まれる有効性・倫理性の問題は回避できています。また、生物学的な問題に含まれる実用性と安全性の問題に関しても、今後も観察は必要ですが、現状では問題は顕在化していません。残る問題として、効率性に関するものがあります。効率性に関係する問題は「固体差異」と「培養速度」、それに「同疾患発症」を挙げています。「固体差異」とは、患者の細胞によっては培養量が不足する問題です。この細胞ごと発生する差異性の原因は、いまだ不明ですが、この現象に起因する問題は顕著です。一定時間経過した後に培養量が少ない患者は、筋肉組織をもう一度改めて採取する必要があります。これは治療開始時間の遅延につながる問題である。再びゼロベースから培養はスタートされます。さらに、患者から細胞を採取するためには胸部麻酔、または全身麻酔が必要です。患者が高齢や他の疾患を抱えている場合、麻酔は決して安全な処置ではありません。その分だけ身体に負担をかけることになります。そして、二度目の採取を行い、培養をしても、規定の量まで細胞が増殖しなかった場合、本治療は受けることができません。 ・大阪大学医学部附属病院: ヒト幹細胞臨床研究実施計画書の修正について, 第51回科学技術部会資料, 2009 ・阿形清和他: 再生医療生物学, 現代生物化学入門7, 岩波書店, 2009