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『命と向き合うデザイン』 

 新・再生医学について−10

次に、実用性、有効性、倫理性について言及します。 実用性とは、需要と供給の関係によるところが大きいと言えます。例えばパーキンソン病の治療に用いられるドーパミン作動性ニューロンを選るためには中絶胎児脳にして10対以上が必要であることが分かっています。これはドナーの不足による移植手術が滞っている問題と同様のことが起こることを意味しており、たとえ治療方法として確立したとしても実用性が極めて乏しいことを意味しています。また精製が困難な細胞などに関しては同様の問題が発生すると考えられます。 有効性とは再生医療による治療の効果を確認することの困難性です。例えば脊髄損傷に対する神経幹細胞移植の臨床応用に向けた動物実験を行う場合、従来の動物実験で用いられるようなネズミは使用できません。齧歯類と霊長類では脊髄の構造と機能が異なるためです。この場合、同じ霊長類であるサルを用いるなど実験方法から新規に考える必要があります。 倫理性とは再生医療が一般化したときにすでに語られていたことですが、胚の使用に関すること、胎児由来の体性幹細胞の使用に関することなど、いまだ決着は付いていません。 これら5つの分類は、もう一段階大きなくくりとして、生物学的な問題と法的な問題に分けることができます。安全性・効率性・実用性は、細胞や組織、生体そのものの問題として考えられ、発想や実験などによって解決していく内容です。一方、有効性や倫理性といったものは、生物学的な知見ももちろん必要ではありますが、それ以上に法的な縛り強いと言えます。2006年9月から、再生医療のための臨床研究を対象に「ヒト幹細胞を用いる臨床研究に関する指針」というガイドラインが施行されています[75]。その中では、非常に厳しいガイドが示されていますが、これは再生医療の成長を抑えることが目的ではなく、むしろ再生医療が社会的な尊敬を獲得するために必要な事項としてまとめています。また、分野によって進捗が異なる医療であることからも研究者ごとの独自判断による臨床研究の発散を避けることも同時に目的としています。 ・中辻憲夫, 中内啓光: 再生医療の最前線2010, 羊土社, 2010 ・立石哲也, 田中順三: 図解 再生医療工学, 工業調査会, 2004 ・阿形清和他: 再生医療生物学, 現代生物化学入門7, 岩波書店, 2009 ・筏義

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 新・再生医学について−9

多くの可能性を持った再生医療ですが、問題点も散見されます。対象とする領域が広いため、各器官ごとに発生している問題もありますが、再生医療として俯瞰した場合の問題点は主に次の5つに主に分類されると考えられます。安全性・効率性・実用性・有効性・ 倫理性の5つです。まず、安全性と効率性について言及します。 安全性とは奇形腫の形成や免疫拒絶といった細胞−細胞間、細胞−生体間に発生する生物学的な事象に関する問題です。特に奇形腫に関してはES細胞において残存未分化幹細胞が惹起する問題です。また、自己由来以外の細胞を用いる場合は、免疫抑制剤がほぼ確実に必要になることからも免疫系とも関係性は細胞が定着するまで懸念事項として残ります。 効率性とは、固体による細胞培養の差異によるものと、培養に必要な時間の問題があります。固体差異は例えば単位時間培養しても平均的な培養量が得られないなどの問題があります。その場合、患者から再び細胞を採取し、培養し直す必要が生じます。また、後者は治療目的ごとに必要な細胞量は異なりますが、いずれにしても細胞を培養するにはある一定時間が必要になるということです。これは前者の固体差異にも関係しますが経験値的な数字はすでにまとめられています。この時間はそのまま治療開始日時に影響を与えるため、今後再生医療の需要が増えるに伴い深刻化することは明らかです。また、もう一点、効率性に含まれるものに同疾患の回避があります。現在治療の対象のなっているものの中に遺伝性のものがあれば、自己由来の細胞を用いては完治が難しい可能性があります。その検証はまだ行われていません。 ・中辻憲夫, 中内啓光: 再生医療の最前線2010, 羊土社, 2010 ・立石哲也, 田中順三: 図解 再生医療工学, 工業調査会, 2004 ・阿形清和他: 再生医療生物学, 現代生物化学入門7, 岩波書店, 2009 ・筏義人: 患者のための再生医療, 米田出版, 2006 ・筏義人: 再生医工学, 化学同人, 2001 ・田畑 泰彦: 再生医療のためのバイオマテリアル, コロナ社, 2006

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 新・再生医学について−8

細胞を培養する場合、組織から目的の細胞を単離しなければいけません。古くからある方法としては、対象となる細胞の感受性に応じて試薬の種類や量などの反応条件を制御し、細胞間の接着を分離していくものがあります。その際にタンパク質分解酵素であるディスパーゼなどが主に用いられます。しかし、このような方法では制度を95%以上にあげることは容易ではないため、機器を使う方法として、FACS(Fluorescence activated cell sorting)を用いる方法があります。機器は主にアナライザー(各パラメータ解析)とセルソーター(細胞分主機能)から構成されています。まず、細胞を蛍光色素標識抗体で染色し、その細胞を0ないし1個だけ含む液滴が、レーザー光を通過する際に瞬時に蛍光を測定し信号処理するというものです。FACSでは1秒間あたり最大で5000細胞程度処理でき、研究用の機器としては有効です。ただし、臨床用としては機器内に細胞の流路があるため、コンタミネーション(汚染)の恐れがあります。生体から単離した細胞は、次に適切な成分組成を有する培地によって培養されます。分化細胞である神経細胞や心筋細胞、肝実質細胞などは増殖能を示しませんが、組織の多くは未分化な幹細胞・前駆細胞を含んでいるためこれらを使い増殖することができます。培養過程は初期培養と経代培養に分けられ、生体から単離後、直後の培養を初代培養と呼び、以降、培養皿へ植え次いでいくものを経代培養と呼びます。一般的に血球以外の細胞は基質接着性であるため、適切な細胞接着因子を培養皿に塗布するか、培地に添加する必要があります。培地に使用される血清(ウシ胎仔血清など)はフィブロネクチンやビトロネクチンなどといった細胞接着タンパクを多量に含んでいます。多くの細胞は培養皿上で増殖しますが、互いが近接するようになると増殖が停止します。動物細胞の培地には次の物質が含まれます。栄養素:グルコース・アミノ酸・ビタミン・無機塩類。pH安定剤:重曹・有機塩類。その他増殖・分化を維持するため:細胞成長因子。これらを含む血清を5%~10%添加します。生成した化学薬品および組み換えタンパク質のみで調整された培地を完全合成培地と呼び、安全かつ再現性の高い再生医学には完全合成培地は必須です。これらを培養容器に入れて実験を行いますが、近年はプラスチック製の培

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 新・再生医学について−7

当初は重層化した表皮組織を、培養皿上に作成し、培養表皮として皮膚の治療に用いられました(1975年に、H.Greenらによって)。この際に、培養表皮はディスパーゼと呼ばれるタンパク質分解酵素を用いて培養皿から回収され、皮膚損傷部位に移植されました。1980年代になり、培養真皮、培養全層皮膚、培養血管などを作成する技術が開発されると、これらの技術は総称して組織工学と呼ばれるようになります。そして、培養する細胞そのものの研究が進むと、次に、生分解性高分子による足場(スキャフォールド)の研究が始まりました。1993年、Langer, R.とVacanti, J.P.らによる共著「Tissue Engineering」がScienceに掲載されたことを皮切りに、組織工学の研究が世界的に進められるようになります。ネズミの背にヒトの耳がついた写真は広くメディアに取り上げられましたが、これは生分解性高分子の足場をヒトの耳の形に成形し、軟骨細胞を播種・培養した後に生体に移植したものです。生分解性高分子とは、生体吸収性高分子とも呼ばれ、体内に埋め込み後、一定の半減期をもって体内で分解、吸収または排泄される素材のことです。一般には手術時の縫合糸や薬物担体としてのカプセルとして使用されています。こういった組織工学的手法を用いる利点は、細胞懸濁液の注入で問題になっていた細胞の流出や壊死による細胞の損失を克服できることであり、先天性疾患などの欠損部位に対する治療が可能であることも優位な点です。しかし実際、足場の内部へ十分な細胞数を播種することは容易ではなく、移植後の足場が分解した後の空間は細胞成分が少なく、大量の線維性結合組織で埋められてしまう問題があります。つまり、生分解性高分子を足場として用いる場合、生体側でつくられる細胞外マトリックスが足場と置換される形で形成されれば、形づくった状態で再生されますが、分解速度と生成速度がずれると形が崩れる場合があります。このため、軟骨や心臓弁など細胞がまばらな組織の作成は可能性がうかがえますが、細胞が高密度かつ複雑な構造と機能をもつ組織を作製するには現状の技術では難しいと言われています。 ・中辻憲夫, 中内啓光: 再生医療の最前線2010, 羊土社, 2010 ・立石哲也, 田中順三: 図解 再生医療工学, 工業調査会, 2004 ・Lange

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 新・再生医学について−6

再生医学は幹細胞生物学である基礎生物医学研究と、生体組織工学からなっています。後者の組織工学は1980年代後半の米国で提唱されましたが、元になった動物細胞培養に関する研究は19世紀の初頭からあったものです。ここで言う組織とは「分子から個体にいたる生物の階層性の中で細胞と臓器の間に位置しています。細胞ー細胞間接着により連結した複数の細胞と細胞間隙を埋める固相成分である細胞外マトリックスからなる。」と言われています。骨や軟骨、真皮などは、そのほとんどが細胞外マトリックスによって形づくられています。一方、心臓や肝臓といった実質臓器は、細胞を主成分とし、細胞外マトリックスは細胞間の微細な間隙にのみ含まれています。元々、細胞を用いた治療は注射針を用いて細胞懸濁液を注入する方法がとられていました。今でも一般的に残っているものとして、輸血が挙げられます。輸血は、組織構造をもたない末梢血の血管内への移植と言えます。細胞移植としては、骨髄中の造血幹細胞移植をはじめとして間葉系幹細胞移植、末梢血単核球細胞移植、自己骨格筋筋芽細胞移植などが臨床応用されています。しかし、肝硬変や重症心不全といった正常組織構造が3次元的に損失している疾患に対して筋芽細胞の細胞懸濁液を注射した場合、移植率はわずか10%程度でした。また、移植した細胞が正着せず、目的の場所に固定しなかった場合、細胞懸濁液は血管を伝い、脳梗塞などの合併症を引き起こす危険がありました。例え正着しても、縞状になり、3次元的な臓器を回復するのは困難でした。さらに、細胞を心臓に移植する場合、注射針によって心筋を侵襲することになります。これによって不整脈などが発生しました。これらの問題を解決するため、組織を再構築するための新しい細胞培養方法が考え出されました。 ・Shinichi N: 再生医学の可能性. 日本外科学会雑誌. 103(臨時増刊). 29. 2002. ・浅島誠, 阿形清和, 山中伸弥, 岡野栄之, 大和雅之, 中内 啓光: 再生医療生物学, 現代生物化学入門7, 岩波書店, 2009

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 新・再生医学について−5

ここで、iPS細胞を考えてみますと、その作成に関して「転写因子の遺伝子発現を制御することで、細胞の分化状態を人為的にコントロールできることを初めて示した」という功績が大きいと言えます。従来は核移植でしかリプログラミングできなかったことを、4つの遺伝子を操作するだけで可能にしたのです。このことから再生医療を実現していく上で重要なコトとして、1)細胞の分化状態を分子レベルで理解する。2)位置情報の制御が行える。の二つがある、と考えられているます。具体的に幹細胞を用いるとどのようなことができるのかを見てみます。脊椎動物は受精後、卵割を繰り返すことで細胞数を増やし胞胚期に達します。この時の胚の一部につくられるのが未分化細胞塊であり、それを培養したものが胚性幹細胞、つまりES細胞です。両生類は受精後9時間で胞胚期を迎え、未分化細胞ができます。1)未分化細胞を取り出し、2)カルシウムをのぞいて、3)細胞をばらばらにする。4)100mg/mlのアクチビンを加え、5)1時間処理し、6)再びカルシウムを加えて、7)凝集塊をつくる。8)3日後には拍動する心臓が生まれます。9)血清を加え、10)10日間培養すると、11)活動電位のある、1心室2心房の心臓ができます。 ここで、改めて幹細胞を整理します。まず、幹細胞とは「異なる機能を持つ複数の細胞へ分化する能力(多能性)と、自己増殖を続ける能力(自己複製能)を持った未分化な細胞」と定義されています。さらに幹細胞は分化能力によって分類できます。まず、一個の細胞から身体を構成する全ての細胞に分化できるのは受精卵であり、全能性幹細胞と呼ばれます。これに対して、身体を構成する全ての細胞への分化能を持つが、一個の細胞単独では個体発生を起こせないものを多能性幹細胞と呼びます。ES細胞(embryonic stem cell)と呼ばれるものはこの多能性幹細胞の一種で、初期胚から樹立された胚性幹細胞です。さらに、2007年にヒトの皮膚由来線維芽細胞に多能性維持に関する4つの遺伝子を組み合わせて導入することで多能性を獲得した人工多能性幹細胞、iPS細胞(induced pluripotent stem cell)が樹立されました。ES細胞とiPS細胞の最も大きな違いは、iPS細胞が初期胚のような未分化な細胞ではなく、分化の進んだ細胞からでもリプログラミン

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 新・再生医学について−4

一般に、再生の研究においては、プラナリアの研究が盛んに行われます。プラナリアは無脊椎動物の中で最も高い再生能力を持つと言われているため、再生医学に関する研究対象として非常に適していると考えられるているからです。その研究からプラナリアの再生メカニズムはおおよそ以下のような流れがあることがわかっています。1)傷口の修復。2)再生芽の形成。3)不足部分の先端の形成。4)頭から尾までの身体の領域性の再編成。5)必要な細胞の供給。ここで言う身体の領域性とは身体の位置情報のことです。多細胞生物が個体を形成する場合、まず、形成する場所の座標をつくり、その座標に沿って幹細胞を制御し、形と機能をつくりあげていく、というプロセスが存在します。つまり、まず損傷箇所の図面を作成し、必要な部材を構築・配置する流れになっており、効率の良い工学的な流れを過程を経て再生されることがわかります。 無脊椎動物の代表はプラナリアでしたが、一方、脊椎動物の中で最も高い再生能力を持つ生物は、イモリです。脊椎動物の中で最も高い再生能力をイモリは、尻尾や手足だけではなく、顎や脳、眼、心臓などの組織や臓器の一部を再生できます。このイモリに関する研究から、以下の2点が明らかになっています。1)多細胞生物の各細胞は、受精卵から分化した後も全ての遺伝子情報が保存されている。2)分化した細胞でもリプログラミング(殖細胞や体細胞など分化の進んだ細胞が多能性や全能性を再獲得すること)可能である。一度分化した細胞は脱分化を行い、元の形質を失った状態になります。そして目的の細胞へと改めて増殖・分化を行っていきます。このことから脱分化した細胞も幹細胞と同様の性質を有している可能性があることが示唆されています。このように再生に用いられる細胞は「幹細胞由来」か「分化細胞由来」ということになりますが、分化細胞の脱分化を幹細胞へのリプログラミングと考えると、結局は幹細胞由来と言えます。ヒトのような多細胞生物の再生に関する治療を考える場合、細胞の分化状態をどのように制御するか、ということが極めて重要になってきます。リプログラミングは従来は核移植を行うことでしか実現できなかったからです。 ・阿形清和他: 再生医療生物学, 現代生物化学入門7, 岩波書店, 2009 ・田畑 泰彦: 再生医療のためのバイオマテリアル, コロナ社, 200

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 新・再生医学について−3

細胞が再生する状況を考えます。ある空間で細胞が生存していくためにはその周辺環境との関係が重要です。一般に細胞増殖因子・細胞外マトリックスと呼ばれているものが周辺環境を構築しており、同時にこれらの素材が細胞の増殖や分化を制御しています。よって、高い増殖能力を有する幹細胞があったとしても、周辺環境である細胞増殖因子などが適切な状態でない限り、細胞の再生は望めません。細胞が培養・分化しやすい足場をいかに構築するか、ということを研究するための分野として生体組織工学があります。つまり、高い増殖・分化能力を有する細胞そのものの研究と、細胞が成長するための環境の研究の両方が進歩することによって、再生医学は現実的な研究として成長し、再生医療として現場への応用が可能になります。 次に、細胞の再生原理を詳細に観察します。生物が行っている再生の方法は2種類に分類され、それぞれを代表する生物がいます。1)再生の種となる細胞である「幹細胞」を準備して、高い再生能力を発揮している生き物(プラナリアなど)=幹細胞利用。2)既存の細胞を一旦「リプログラミング」してから必要な細胞をつくって再生を実行している生き物(イモリなど)=細胞のリプログラミング利用(iPS細胞)。細胞の中でも、最もさまざまなモノに分化できる細胞は受精卵です。受精卵から分裂して色々な種類の機能に分化した細胞を分化細胞と呼びますが、受精卵はあらゆる種類の分化細胞を生みだすことができます。一般に多細胞生物は成長とともに細胞の数を増やし、個体として機能するために必要な種類の細胞をつくる必要があります。幹細胞はその特徴として、多分化能と自己増殖能を併せ持つため、多細胞生物の成長にとって必要なことを同時に行うことができます。しかし、幹細胞は分化するにしたがって、やがて全て分化細胞に変わり、成体になると幹細胞としての機能はほとんど失われ、一部の組織に組織幹細胞が残るのみになります。受精卵から分化するしばらくの間は全能性幹細胞の状態を維持したまま増殖します。この状態の細胞を胚から取り出し、全能性状態を維持したまま培養した細胞がES細胞です。 ・阿形清和他: 再生医療生物学, 現代生物化学入門7, 岩波書店, 2009 ・筏義人: 再生医工学, 化学同人, 2001 ・田畑 泰彦: 再生医療のためのバイオマテリアル, コロナ社, 20

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 新・再生医学について−2

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再生医学は、元々、肝不全の子供達への移植肝臓不足を改善するため、肝細胞を増殖し、肝移植に利用したことに端を発します。再生医学の成長には大きくは二つの研究分野の進歩が関わっています。一つは基礎生物医学研究であり、もう一方が新・再生医学について-1で書いた生体組織工学です(Fig:再生医学の構図)。前者の目的は、幹細胞・細胞増殖因子・細胞外マトリックスの研究を通して、再生現象を正しく理解することです。特に近年になって、ヒトの組織・臓器中にも、高い増殖・分化能力を持つ幹細胞が存在していることがわかってきました。2004年に発見されて以来、積極的に研究されている胚性幹細胞(ES細胞)や、2006年に4遺伝子によって樹立することが明らかになり、以降世界中で研究が活発化しているiPS細胞に関する研究もここに含まれます。後者の目的は、再生誘導の場を構築することです。これらはバイオマテリアルと呼ばれる分野が研究の中心であり、生体安全性・生体適合性の高い素材の研究・開発が行われています。バイオマテリアルと一口にいってもその領域は非常に幅広いです。人工歯根などから人工関節、人工血管等まで生体に移植する材料全般を指す言葉として用いられいています。しかし、特に再生医学におけるバイオマテリアルとは細胞や組織の足場になる部分を指すことが多い分野です。 ・Takahashi K, Yamanaka S: Induction of pluripotent stem cells from mouse embryonic and adult fibroblast cultures by defined factors. Cell 126: 663-676. PMID 16904174. 2006. ・Nakagawa M, et al: Generation of induced pluripotent stem cells without Myc from mouse and human fibroblasts. Nat Biotechnol 26: 101-106. PMID 18059259. 2008. ・Takahashi K, et al: Induction of Pluripotent Stem Cells from Adult Human Fibroblasts by De

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 新・再生医学について−1

薬物を用いる治療は、さまざまな治療法の中でも最も一般的です。しかし、著しい組織の欠損など不可逆的に人体の内外が損傷を受けた場合には医薬品でできる治療には限界があります。そういった疾患に対して従来は、臓器移植や人工臓器埋込術といった方法が用いられてきました。ところが、前者に関しては供給される臓器数・ドナーの数に限りがあることや、倫理的問題が残存しています。また、後者に関しては対象臓器によっては、未だ十分な機能・性能が得られていないという現実があります。さらに両者に共通して言えることは生体適合性の問題です。臓器移植では、親近者同士であっても免疫抑制剤が必要であり、その副作用による影響も無視できません。一方、人工臓器埋込術では、異物に対する防護機構として血栓形成・免疫応答・炎症反応・排除反応などの可能性、機器そのものの機能低下が懸念されます。  これらの短所を補う形で進められて来たのが再生医学であり、その研究成果を臨床応用してきたのが再生医療です。再生医学とは、工学的に再構成した細胞や組織を用いて治療する研究を行う学問と言われています。具体的には、まず、患者から細胞や生体組織を採取し、それを工学技術や方法論を用いて培養・増力します。同時に生体側に対して、組織の生体誘導を手助けするための環境をつくり与えます。培養した細胞または組織を、設定した箇所に移植することで、生体側の再生能力を発揮させ治癒を促す研究・治療のことです。その目的を端的に表すと「著しく損傷したり失われたりした生体組織と臓器の治療のために、細胞を用いてその生体組織と臓器を再生あるいは再構築する技術の確立」と言えます。類似の名称として再生医療・再生医工学などといった名称も用いられていますが、対象領域はほぼ一致しています。ただし、再生医学が基礎生物学医学研究の発展を目的としているのに比べ、再生医療はあくまでも直接患者の治療に活用することを目的としています。訳語の元になった用語は「Tissue engineering」であり、日本語の直訳が「生体組織工学」であることからもわかるように、生体組織を対象とした工学的内容を強く持つ分野ですが、2010年現在の再生医学はこれに加え、幹細胞生物学など基礎生物医学研究の内容も含まれています。 ・筏義人: 患者のための再生医療, 米田出版, 2006 ・筏義人: 再生医工学

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 目的−2

細胞シート工学を用いた革新的な治療は,大阪大学医学部附属病院にて行われた心筋梗塞患者への自己由来細胞シートの移植手術です.心筋梗塞とは心筋への血流量が減ることによって心筋が死滅することによって発生する病気です.心筋に血液を送る冠状動脈と呼ばれる血管が血液側,または血管側の原因によって狭窄し,血流が途絶した場合,心筋細胞は血液からの酸素・栄養分の供給がなくなり徐々に死滅していきます.死滅した心筋細胞は血液を拍出することができなくなるばかりでなく,細胞がやせ細ることで心室内の容積が広がり,ますます血液は心臓内にとどまりやすくなります.血流が滞る箇所には血栓が発生しやすく,もし発生した血栓が脳の毛細血管に塞栓を形成した場合,脳梗塞を誘発します.また,心筋は回復しない筋肉として知られており,一度死滅した心筋は再生しないと考えられて来ました.そのため,重度の心筋梗塞の場合は,心臓移植か人工心臓による治療以外方法がなく,この患者にも当初,人工心臓埋込手術が適応されました.しかし,次に,自己由来細胞シートによる治療として,心筋の梗塞箇所にシートを重ねて貼り付けたところ,シート自体が心筋の拍動に合わせて拍動を行うばかりでなく,シートを介して血管が再生され,心筋自体の回復も認められました.最終的にこの患者は,取り付けていた人工心臓を取り外し,退院するに至っています.現在の細胞シート工学の中心技術は,非侵襲な細胞剥離を実現している培養皿に集約しています.この技術を産業化し販売することは技術的にも問題なく,すでに実現されています.しかし,細胞シート工学全体を俯瞰した場合,培養皿を量産し販売するだけでは産業化としては十分ではないと考えられます.細胞シート工学を今後さまざまな医療機関に導入するにあたって発生するであろう問題を明らかにし,その解決を行った上で適切な医療機器や医薬品の提案を行うことが問題解決につながると考えます.その実践的デザイン提案を行います. ・阿形清和他: 再生医療生物学, 現代生物化学入門7, 岩波書店, 2009

『命と向き合うデザイン』 

 目的−1

再生医学をデザイン医工学の一分野として,その関わりを定義します.特に細胞シート工学による心疾患の治療について言及し,産業化を目的とした実践的デザイン提案を通して,デザインが再生医療に関わっていく方法論の一つを示します.細胞シート工学は再生医学の一分野です.再生医学は主に基礎生物医学研究と生体組織工学の二つの柱で構成されており,それぞれもいくつかの分野に細分化されています.その中の一つにシート化した細胞を用いて治療を行う分野があり,生体組織工学の中でも細胞シート工学と呼ばれている.近年になり発達した分野であり,その基本技術は,対象から採取した細胞を培養皿上で工学的に培養し,シート上に精製した細胞を,損傷を与えずに培養皿から剥離するというものです.剥離した際に「足場」と呼ばれる細胞同士の接着タンパクを有したまま摘出できるため,患部に貼り付けることが容易です.従来,体外で培養した細胞は,まず人為的に作製した足場を患部に設け,その上に培養した細胞を播種する必要がありました.しかし,細胞シート工学の発達による足場の不要によって,手術がより容易になり,生体本来の接着タンパクで細胞を貼り付けることができるため,生体への侵襲が低くなりました. ・阿形清和他: 再生医療生物学, 現代生物化学入門7, 岩波書店, 2009

『命と向き合うデザイン』 

 背景−7

デザイン医工学として,医学+工学の関係でデザインが入ることは,医学の知見を工学の技術を使って産業化することだけが目的ではありません.産業化はあくまでも結果です.産業革命期にデザインが発達できたのは,新技術に立脚した製品設計を造形とともに行えたことによるところが大きいです.このように,医学的知見と工学的技術に立脚した製品設計を造形とともに行うことが本来の目的であると考えるならば,デザイン医工学という領域も同様に考えられます.ここで,デザイン医工学の特徴が顕著に表れている例を挙げます.川崎らと阿部らによる,全置換型人工心臓「KAWASAKI G5-MODEL(UPTAH5)」です.全置換型人工心臓の開発に残存している問題の一つである熱排出に対して,デザインの立場から解決方法を提示し研究を進めています.そのためにデザイナーが生物学的問題点を把握し,機器内部の回路や機構設計までを行い,製品化に向けて進めています.現在は実際に山羊に埋め込む形で動物実験を行っており,結果を受けて段階へと移行します.このように,単なる加算法的な研究ではなく,相互に関係性を強めながら問題解決を行っていくことがデザイン医工学の姿であると考えます. ・小川貴史, 金谷一朗, 川崎和男, 阿部裕輔, 磯山隆, 斎藤逸郎:「人工心臓コンセプトモデル”Kawasaki G5-model”の設計」,東京,第48回日本生体医工学会大会,2009.4.24

『命と向き合うデザイン』 

 背景−6

デザインと産業の関係は歴史から見ることができます.近代産業の歴史は産業革命から始まります.19世紀の産業革命以降,家内制手工業から工場制機械工業への変革が起こり,少品種大量生産の時代が続き,現代はインターネットを中心とした情報革命に支えられた多品種少量生産時代へと移行しています.産業革命における工学的な技術革新の歴史は言うに及びませんが,近代デザインもまた,産業革命を一つの契機としています.革命以前から重視されていた職人の手による造形は,革命以降に生まれた規格化・標準化という流れの中でも消えるかと思われましたが,逆に,同時期に生まれた新素材・新成形技術・新生産方法に立脚したかたちで,造形の美と新技術を兼ね備えた製品づくりとしてデザインが発達しました.そして,必然的にデザインは素材から生産方法までを含めた製品の全体管理を包括する領域へと成長しました.20世紀に入り,デザインはバウハウスというかたちで教育の立場を得ます.それまでの師弟関係による直線的なつながりから,デザインが一つの「論」として体系づけられ,一般性を有して広く展開されることになりました.現代では,デザインという単語は例えばグランドデザインやキャリヤデザインなど,さまざまな領域で用いられています.これはdesignという言葉が持つ「計画」と「意匠」という二つの意味がどちらかに偏ったかたちで認識された結果です.しかし,根本にあるのは産業革命以降に確立したせ「製品または商品として企画・計画から,素材や回路・機構までを含めた詳細な製品設計・意匠にいたるまでの全体管理」という考えであり.産業に密接に関係した領域であることが分かります.このように産業に対してデザインが果たして来た役割は大きく,工学の持つ根源的な技術に,ある部分で支えられながら,互いの短所を補いつつ,長所を伸ばしあいながら成長してきたと言えます. ・ニコラス ペヴスナー, モダン・デザインの展開―モリスからグロピウスまで, みすず書房 ・柏木 博, デザインの20世紀, NHKブックス, 日本放送出版協会

『命と向き合うデザイン』 

 背景−5

現状を踏まえ,再生医療に関する医療機器や医薬品を,積極的にかつ速やかに産業化する必要があります.西洋医学の歴史を見る限り,医学と工学の歴史は常に相補しながら成長してきました.結果,医工学という領域が生まれ,医学として基礎研究から知見を集約し,工学としてそれらを創造してきました.しかし,医工学という領域はあくまでも医学+工学という側面をぬぐい去ることができず,領域の融和には至っていないと考えます.その原因の一つとして産業化を挙げることができます.工学は産業化には欠かすことができない領域ですが,すべての工学的研究が産業化できるわけではなく,そもそも産業化することが目的ではない研究も多くあります.しかし,医工学として目指すものが「医学」機器ではなく「医療」機器である以上,臨床の治療に用いられる機器であり,産業化することは必須の要件です.医療機器や医薬品を産業化する場合,そこに必要なものは製品または商品です.工学的に何かをただ「つくる」ことと,製品化・商品化することは異なります.そのためにはモノの持つ製品性と商品性を正確に設定する必要があり,その領域を包括し,工学とともに産業に寄与してきたのがデザインです. ・社団法人日本生体医工学会(旧:日本エム・イー学会)とはhttp://www.asas.or.jp/jsmbe/info/outline.html ・グッドデザインアワード・イヤーブック GOOD DESIGN〈2003‐2004〉, 日本産業デザイン振興会, 2004

『命と向き合うデザイン』 

 背景−4

今後,再生医療の領域は国際的な競争力が必要になります.現在の世界市場における日本国内の医療機器産業を見てみると,国内市場に占める輸入医療機器の比率は1995年(35.5%)から2004年(46.4)にかけて著しく増加しており,平成18年には金額にして1兆910億円程度になっています.特にペースメーカーやICDは100%輸入に頼っており,PTCAカテーテルも約80%は輸入品です.日本での治験に必要な時間は,国内メーカーでも海外メーカーでも変わりはありません.それにも関わらず,海外メーカーが日本国内での販売に力を入れる理由として,日本が医療保険制度が完備されていることが挙げられます.メーカーは医療費として確実に利益を得ることができるため,たとえ治験が長期に渡り,コストが増加しても市場価値は十分に大きいと判断されています.逆に,国内メーカーは長期に渡る治験に掛かるコストとリスクをよりも,海外で治験を行い,まず,海外から先行販売を始めます.その後,日本国内での製造許可申請を行う場合が増えてきています.テルモハート社製のDuraHeartという補助人工心臓はまさにこの手順を踏んでおり,現在,日本国内で許可申請を行っているところです.つまり,海外ではすでに販売が開始されているにも関わらず,日本国内では入手することができません.日本に積極的に医療機器を持ち込む海外メーカーに対して,国内医療機器メーカーは,特許などの権利を取得することによって,独自の技術を守りつつ,海外メーカーと戦う必要があります.また,日本の製品は欧米諸国に比べ製品精度は優れています.これは製造管理が厳しい医療機器分野においては強みになります.クラスⅣの高度管理医療機器なども製造できる精度を有しています.元来,貿易立国である日本にとって経済効果が大きい医療機器や医薬品は,国内で製造を行い,積極的に輸出を行うべき領域です.治験が難しい製品はクラスⅣやクラスⅢのように患者へ及ぼす影響も強い製品です.そういった製品を海外メーカーに委ねることは安全・安心という点からも改善していく必要があると考えます. ・中辻憲夫, 中内啓光: 再生医療の最前線2010, 羊土社, 2010 ・福崎 剛: 最新医療機器業界. 株式会社ぱる出版. 2008. ・厚生労働省医政局, 薬事工業生産動態統計 平成20年度 年報, じほう,

『命と向き合うデザイン』 

 背景−3

再生医療は,憶測も含めて世論としても期待が高まっている分野ではあるますが,例えば,細胞をシート化して治療に用いる「細胞シート工学」の領域で言えば,現時点で臨床応用されているのは角膜組織・食道粘膜組織・心筋組織と限られています.これは日本の医療制度における問題でもあります.一般的に薬事法に基づく治験は,海外の類似の試験に比べ長期に渡ると言われています.特に細胞など生物学的な薬剤に関しては時間がかかることが知られています.また,人間のクローン製造というようなことが,話の中だけではなくなり現実に起こりうる可能性を持ってきたことも,臨床応用への懸念材料になっています.さらに,これまで人類が触れて来なかった領域という意味では倫理的な問題の検証も済んでいません.これはES細胞やiPS細胞の発見によって,再生医学の中でも,幹細胞に関する研究だけが一気呵成に進んでいることも一役を担っていると想像されます.つまり,ある特定領域だけが急速に研究が進むことによって,周辺の研究が置き去りになり,再生医学全体として成長することが困難になっているため,発生が予想される問題および問題に対する解決方法のいずれもが,いまだ見えていない.しかし,医学の世界では,ある事柄が明らかになることによって,その領域の研究が急激に進むことは珍しいことではありません.例えば,1978年に能勢らによって完全置換型連続流人工心臓が3ヶ月間ウシを生存させたことによって,多くの研究機関が拍動型ポンプから連続流型ポンプへと研究対象を変えたと言われています.そして,現在,日本国内で最も実用化の可能性が高い人工心臓はいずれも連続流型ポンプを有した製品です.ただ,一方では現時点で日本国内で唯一使用を認められている人工心臓は,拍動型であるという現実もあります.もし,能勢らによって連続流型ポンプの実用性が確認されなければ,それから20年の歳月を掛けた現在,より優れた拍動型ポンプがつくられていたかも知れません.その可能性は検証することができません.同様に,現在の再生医学がES細胞やiPS細胞によって牽引されている状態が,その周辺で置き去りにされている研究対象にどのような影響を与えているかは,確認することが困難です.逆に考えれば,今日の再生医学の進歩は世論の表れでもあります.これまで治らなかった疾患への回復可能性は多くの人に希望を与える

『命と向き合うデザイン』 

 背景−2

一方,再生医学に基づく再生医療は,従来医療の抱える矛盾を受け,むしろ,従来医療を補完するかたちで研究・開発が活発化してきました.従来医療における処置の中心は薬剤によるものですが,生体の組織がある範囲以上にわたって欠損した場合,薬剤による治療だけでは復元できません.その際,従来医療では組織の移植や人工物を用いてその機能または外観の復元を行ってきました.しかし,これらの解決方法にはそれぞれいくつかの問題が残存しています.最も大きな問題として,前者では移植組織の絶対的な不足・ドナーの不足が挙げられ,後者では人工的な組織の未完成が挙げられます.こういった問題に対する対応・研究が継続して行われている中,従来医療を補完する形で頭角を現してきたのが再生医療です.ES細胞やiPS細胞などがメディアで騒がれ始めた数年前より以前,約30年前から再生医学というかたちで研究は始まり,今日まで続けられてきました.その研究対象はES細胞などの名称からもわかるように,主に細胞や組織です.ヒトに限らず,生命体は膨大な量の細胞によって形づくられています.それらの細胞を思い通りに操作することができれば,どんな生体もつくり出すことができる,という構想が根底にあります.1997年2月に発表された世界初の哺乳類の体細胞クローンである雌羊ドリー以降,クローンという表現が話題に上ったことがありますが,ある生体とまったく同じ細胞を培養することができれば,まったく同じ生体の量産が可能になるという,SFのような論も展開されいてきました.そして,この構想を治療に適応しようと考えられたのが再生医療です.生体の過度の欠損という症状に対して,欠損箇所と同じ細胞や組織を,工学的に培養・精製し,欠損箇所に移植することで治療を行う.この基本的な考えは,人の既知の事実に基づいています.ヒトに限定して考えてみると,ヒトが母体の胎内で1つの受精卵から人間のすべての体組織を形成し,出産されることは,一般的に知られています.この現象は言い換えれば,目や手,脳や心臓といったあらゆる組織が,最初はたった1つの受精卵だったことを意味しており,受精卵には身体をつくるすべての情報が含まれていることになります.この原理を基礎としてES細胞やiPS細胞の研究はなされています.つまり,患者から採取した細胞に対して処置を行い,その細胞を患者自身に戻すという

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 背景−1

まずは目的を明確に、そのために背景をはっきりと。 現代医学は一つの転機を迎えつつあります.ES細胞やiPS細胞の研究に牽引されるかたちで,再生医学の研究が進み,再生医療として現場で適応される例が増加しています.特にiPS細胞という言葉に関しては日本の研究者がその発見者であることからも,頻繁にテレビ・新聞などのメディアにも取り上げられ,専門性の枠を越え一般の人にも広く知れ渡っています.再生医療の新しさは科学的な側面はもちろんのこと,その考え方そのものにもあります.ここで,再生医療以前の医療を従来医療と呼び,その性質を比較すると,両者の間では,医療者と患者の関係が変化していることがわかります.従来医療とは,主に,過去100年程度の歴史を持つ近代の西洋医学による医療を指します.西洋医学に関する記述は渥美先生の著にまとめられており,それによれば西洋医学には画期的な発見が3つあります.1つは消毒方法の発見による感染減少であり,2つ目は血液型の発見による輸血の実現.3つ目は麻酔の考案による手術の実現です.これらが発見・考案されたのがいずれも100年程度前であり,これらの技術によって西洋医学は近代化したと言えます.また,同時期に診断技術も発達し,X線写真の発明を皮切りに,心電計・脳波計・筋電計など,医学と工学が相互作用で進歩してきました.つまり,西洋医学は科学性をもって,東洋医学など他の医学に対して優位性を持つに至ったのです.西洋医学における科学性とは「客観性」「再現性」「普遍性」と言えます.まず,ある症状の発現が発見された時点で,類似する症例を多数集計し,その症状の客観性を見極めます.次にその症状が発現する原因を限定するため,実験やシミュレーションなどを用いて再現性を明らかにします.最後にその症状を緩和する薬剤・処方を限定し,普遍性を求めます.その結果,平均的で統計的な処理が確立し,均一な診察が行われるようになりました.つまり,1つの症状に対する,治療方法を1つに特定できるようになったということです.これによって西洋医学は大きく進歩したが,同時に症状の個別性,患者の個人差を認めることが困難になりました.これらは従来医療の診療(診察・治療)の流れを示しています.従来医療では,医療者が患者を診察し,病状をすでにある分類に従って特定し,それに対応した治療を行います.診察の方向性は

『命と向き合うデザイン』 

 芯

昔から,頭の芯が納得しないとできない子でした.それは原理を理解していない,ということではありません。原理も意味も意図も意義も「理解」していても,芯の部分に落ちていないと,結局アウトプットができない.多分、どうやらそれは今も一緒のようです。年をとって、何か表面だけ器用にできる部分が増えてきても、重要な部分はやはりダメです。そういうとき、自分の中で何かに違和感を感じていることはよくわかっています。たいしたことでなければ,その違和感を押し切っても,普通に普通のことはクリアできます。でも結局、一番重要なところはクリアできない。それが私にとっての、所謂、わからない、という状態。良いとか悪いということは関係ない。悪いことでも納得できれば別に良いし、逆に良いことでも納得できなければ同意はできない。とかく、つくる方面に関しては顕著に出過ぎてしまうようです。しかも、見る人が見ると一発で見抜かれる。本当の意味でストンと落ちることを頭の芯が待ち望んでいる。多くの場合、それはほんの些細なことだったりします。単なる、言い回しや表現の違い、という程度のことだったりする。だから、多くの人にとっては,それはたいしたことではないことが多いため、教えてもらいにくかったり、見つけにくかったりします。相手の話を聞いて、私が納得をしても、相手はなぜそれで私が納得したのかわからないことの方が多いようです。でもこれは、自分で見つけることが、非常に難しい。自分は一体何をもって納得できるのか。何に違和感を覚えているのか。原理も意味も意図も意義も理解しているだけに、なぜ納得できないのか、自分ではわかれない。でも、見つけるしかない。

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 性能・効能・機能

「機能的なデザイン,デザインとは機能性の追求である」という意識に対して,機能性の質を向上させるための思索. 「性能性・効能性・機能性」についての引用. ●性能性:技術的な解決によって,デザイン解が性能をどこまでデザイン表現として性能表示しているか.これは、性能を表示する数値的・単位的・性質的な能力性とデザインによる造形関係である. ●効能性:元来は薬物の効果についてのみ,その成果能力が表示できる事柄.これは薬物を使用することで,どこまで社会参画が可能であるかということを意味していた.効能とは社会との関係で考えられる効用と効果を示している.従って、デザインの効用と効果が,社会との関係性、存在性という質を設定する能力と考えることができる. ●機能性:性能性と効能性の統合かつ統一的な働き能力である.まず、性能的な能力が社会性との関係において,そのデザインが果たすであろうモノ、あるいはかたちの性能が,どれだけ時代や社会という環境の中で,ユーザーへの使用感と所有間に連結しているかという定義に至る. 機能性の再定義は化=かに対する質=たちのデザイン解=答えである.化・質=か・たち論を打ち立てることになる.デザインは,かたち、見える形あるいは見えない形を造形する営為である.この営為によるかたち論は機能性をもう一度性能性と効用性によって取り組みながら再定義し直すことで,性能・効能・機能への造形化がデザインである,という論理構造そして審査基準の制度を確証するのではないかと考えた. ・グッドデザインアワード・イヤーブック GOOD DESIGN〈2003‐2004〉, 日本産業デザイン振興会, 2004

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 産業とデザイン−2

グッドデザイン審査基準 1.良いデザインであるか (グッドデザイン商品、建築・環境などに求められる基本的要素) ○美しさがある ○誠実である ○独創的である ○機能・性能がよい ○使いやすさ・親切さがある ○安全への配慮がなされている ○使用環境への配慮が行き届いている ○生活者のニーズに答えている ○価値に見合う価格である ○魅力が感じられる 2.優れたデザインであるか (商品、建築・環境などの特に優れた点を明らかにするポイント) ○デザイン ・デザインコンセプトとが優れている ・デザインのプロセス、マネージメントが優れている ・斬新な造形表現がなされている ・デザインの総合的な完成度に優れている ○生活 ・ユーザーの抱えている問題を高い次元で解決している ・「ユニバーサルデザイン」を実践している ・新しい作法、マナーを提案している ・多機能・高機能をわかりやすく伝えている ・使い始めてからの維持、改良、発展に配慮している ○産業 ・新技術・新素材を巧みに利用している ・システム化による解決を提案している ・高い技能を活用している ・新しいモノづくりを提案している ・新しい売り方、提供の仕方を実現している ・地域の産業の発展を導いている ○社会 ・人と人の新しいコミュニケーションを提案している ・長く使えるデザインがなされている ・「エコロジーデザイン」を実践している ・調和のとれた景観を提案している 3.未来を拓くデザインであるか (デザインが生活・産業・社会の未来に向けて  積極的に取り組んでいることを評価するポイント) ○デザイン ・時代をリードする表現が発見されている ・次世代のグローバルスタンダードを誘発している ・日本的アイデンティティの形成を導いている ○生活 ・生活者の創造性を誘発している ・次世代のライフスタイルを創造している ○産業 ・新しい技術を誘発している ・技術の人間化を導いている ・新産業、心ビジネスの創出に貢献している ○社会 ・社会・文化的な価値を誘発している ・社会基盤の拡充に貢献している ・持続可能な社会の実現に貢献している ・グッドデザインアワード・イヤーブック GOOD DESIGN〈2003‐2004〉,

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 産業とデザイン−1

産業または産業化におけるデザインの関わりを考える上で,財団法人日本産業デザイン振興会の存在は欠かすことができない.この機関によって運営されている制度が,日本にはグッドデザイン賞というデザイン評価・推奨制度である.1957年に当時の通商産業省によって創立された「グッドデザイン商品選定制度」が母体となっている.グッドデザイン商品選定制度の発足当初は,デザインという概念はおろか言葉すら一般には知られていなかったが,産業と生活の発展のため政策的に制度化された.対象分野は,消費財分野から端を発し,生産財・公共財分野,工業製品分野,建築環境分野,コミュニケーション分野,先端的技術分野での実験的デザイン,デザインビジネスモデルまで,総合的・学際的なデザイン評価制度に成長した.この制度の目的は「デザインを通じ生活のクオリティアップと産業の発展を同時に導くこと」である.生活と産業をより良い方向に導いていくために,デザインはどのような働きを担えば良いかという視点から審査される.審査基準の中心は以下の3点である.1)良いデザインであるか(グッドデザイン商品、建築・環境などに求められる基本的要素).2)優れたデザインであるか(商品、建築・環境などの特に優れた点を明らかにするポイント).3)未来を拓くデザインであるか(デザインが生活・産業・社会の未来に向けて積極的に取り組んでいることを評価するポイント).審査員個人の主観による評価を,主に商品カテゴリー毎にグループ化されている審査団をもって客観化し,さらに部門長審査による再確認などによって客観化を行い.最終的にはこれを制度の説明責任として情報開示を行う.こういった過程を経て,最終的に受賞商品が決定される.産業との関わりを明確にするために,3つの評価基準を詳説し,さらにもう一つの指標として,「性能性・効能性・機能性」を考える. ・グッドデザインアワード・イヤーブック GOOD DESIGN〈2003‐2004〉, 日本産業デザイン振興会, 2004 ・グッドデザインアワード・イヤーブック GOOD DESIGN〈2002‐2003〉, 日本産業デザイン振興会, 2003

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 人工心臓−5

ここまで述べてきた内容から,人工心臓または人工心臓埋込手術に関する問題点をまとめる.問題点は患者自身の生体に関わることと,人工心臓そのものに関わることに分類される.それぞれ,生体に関わるものは「血栓形成」と「感染症の誘発」であり,人工心臓に関わるものは「耐久性」と「熱発生」である.これらの中でも最大の問題は血栓形成である.生体適合性という言葉は未だ定義されておらず,法律的な規制もないため,臨床家や研究者の間でも意見がわかれているところであるが,その主な現象は異物に対する身体の防護機構として次の4つを挙げることができる.1)血栓形成,2)免疫応答,3)炎症反応,4)排除反応.この内,人工心臓に最も影響を与えるのは血栓形成の問題である.血栓は血流に停滞箇所が発生するとその付近で形成される.血栓そのものが人工心臓内において機器動作の妨げになることも問題ではあるが,それ以上に形成された血栓が血管を通過し,脳等,他の臓器の毛細血管内に塞栓をつくる方が問題としては甚大である.生体の防護機構が誘起される原因は主に人工物の表面上にタンパク質吸着層が生成され,血球成分などの細胞が付着するためと考えられている.そのため,人工心臓内の表面素材の改良が続けられている.次に感染症に関しては,体表に開けられた孔によるところが大きい.そのため,現在は2つの視点から研究が進められている.1つは孔の周辺のシールする方法であるが,これは素材の研究が進められている.もう1つは孔を用いない,つまり,すべての要素を体内に納めるか,または経皮的に体外から必要は要素を送り込む方法の研究である.具体的なものとしては電力供給が挙げられる.心臓は1日24時間何十年という期間に渡って動作を続けなければいけない.その際に一番問題になるのは電池部の寿命である.現在,一般的な製品に用いられているリチウム−イオンなどの電池をいくら体内に保有できたとしても賄いきれる量ではない.そこで,経皮的に体内電池に充電する方法が研究されている.具体的には体外・表皮コイルを使って,体内にある二次コイルに電磁誘導で充電する方法がある. ・東嶋 和子, よみがえる心臓―人工臓器と再生医療, オーム社 ・許俊鋭, 斎藤明, 赤池敏宏: 人工臓器・再生医療の最先端, 寺田国際事務所/先端医療技術研究所, 2006 ・筏義人: 患者のための再生

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 人工心臓−4

人工心臓に必要な5つの機構の中でもポンプ部は血流発生という点で重要であるばかりではなく,設計の困難性が高い要素という意味でも重要である.人工心臓に用いられているポンプの機構は主に2つに分類できる.一定量の血液を一定のタイミングで拍出する拍動型ポンプと,絶えず一定量の血液を流し続ける連続流型ポンプである.拍動型ポンプとは,空気圧などを利用してダイアフラムやプッシャープレートを移動させ,血液室容積の変化により拍動流を発生させる方法であり,血液の流入・流出部には,逆流防止弁が装着される.一方,連続流型ポンプとは,インペラ(羽根車)やコーン(円錐)を高速回転させ,発生した遠心力・揚力によって,持続的に血液の移送を行う方法であり,無拍動流とも呼ばれる.当初は自然心の模倣として,拍動型から研究が始まったが,現在ではポンプ機能の効率が優れている点と,機器全体を小型することが容易であることから,連続流型の研究が中心になっている.ただ,連続流型ポンプは,高速回転によって発生する摩耗にともなう耐久性の問題と,回転軸周囲に血液を巻き込むことで生じる血液細胞破壊という二つの問題を有している.特に細胞破壊はモーターの動作負荷を増大させ,モーター内部で想定以上の熱が発生し,人工心臓の筐体破損事故が発生する場合がある.その問題解決を行うため,現在,テルモ株式会社(本社:東京都渋谷区)の子会社であるテルモハート社(本社:米国ミシガン州)が2009年より日本国内での製造申請を行っている人工心臓がDuraHeartである.これは,磁気浮上型遠心ポンプ方式と呼ばれる方式を採用することで連続流型の問題を解決している.具体的には遠心ポンプ内で回転しているインペラを磁気の力で浮き上がらせ,その状態で回転させる,というものであり,1つ目の問題である回転軸の摩耗という耐久性,および2つ目の血液破壊と熱の問題を回避している.すでに欧州では2007年の2月にEU指令の求める要件を満たして認証であるCEマークを取得しており,同年8月から販売を開始している.DuraHeartは体外に電池部と制御部を設けており,ケーブルを介して体内のポンプ部分と結合している.電池部は約2kg程度で肩からバッグのようにさげることができるようになっている.日本人が中心に開発している人工心臓ともう一つEVAHEARTがある.こちらも連続流型

『命と向き合うデザイン』 

 人工心臓−3

人工心臓は主に次の5つの要素で構成されている.1)ポンプ部,2)動力部,3)制御部,4)電池部,5)検知部の5つである.人工心臓はこれらの要素を,体内または体外に設置し人工的な循環器としての機能を発現することができる.例えば,国立循環器病センターと東洋紡績社によって開発された「国立循環器病センター型(日本で1990年に厚生労働省認可を受け,1994年から急性心不全の治療として公的保険が適用)」では,ポンプ部を含むすべての要素が体外に設置される.そのため機器の整備は比較的容易に行えるが,患者が移動する際にはすべての機器を同行させなければならない.多くの場合,一人での移動は困難なため,看護師や家族の介助が必要となる.現在日本国内で公的保険が適用されている補助人工心臓は国立循環器病センター型のみである.つまり,すべての要素を体内に設置できるものはない.そのため,体表を貫通する管が一本以上必要になるため感染症の発生率が上がる.特に,国立循環器病センター型のようにポンプが体外に設置される場合,患者自身の心臓から血液を抜き取るための脱血管(インフロー・カニューラ)や人工心臓から再び心臓に血液を送り込むための送血管(アウトフロー・グラフト)が体表を貫通することになる.これらはそれぞれ太さが2〜3㎝と太く,人体への負担は少なくない.このようにポンプが体外に設置されるものを「体外設置型(体外式)」と呼び,体内,胸腔内にポンプを設置するものを「埋込式(体内式)」と呼ぶ.埋込式の中でもポンプのみを胸腔内に納め,制御部や電池部を携帯するものを「体内設置携帯型」と呼び,すべての要素を体内に埋め,経皮的に体内電池に充電するものを「完全埋込型」と呼ぶが,完全埋込型で実用化されたものは未だない. ・南淵 明宏, 心臓は語る, PHP研究所 ・磯村 正, 治せない心臓はない, 講談社 ・東嶋 和子, よみがえる心臓―人工臓器と再生医療, オーム社 ・日本人工臓器学会, 人工臓器は,いま―暮らしのなかにある最先端医療の姿, はる書房 ・許俊鋭, 斎藤明, 赤池敏宏: 人工臓器・再生医療の最先端, 寺田国際事務所/先端医療技術研究所, 2006

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 人工心臓−2

人工心臓の歴史は,他の人工臓器に比べて長く,1937年にフランス人外科医のAlexis Carrelと大西洋単独無着陸飛行に世界で初めて成功したCharles Augustus Lindberghが「The Culture of Organs」を共同執筆し,その中で人工心臓の原型となる人工心肺の開発を記録している.その20年後の1957年,世界初の体内に埋め込む人工心臓,全置換型人工心臓の動物実験が行われた.執刀はWillem Johan Kolffの指導のもと,阿久津哲造という日本人が犬に対して行い,1.5時間の生命維持に成功した.そして翌年にはKusserrowにより補助人工心臓の最初の実験が行われた.現在でいう人工心臓は,体内への埋め込みを前提としているため,その原型と呼べるものは今から約50数年前に実験が始まったことになる.それから半世紀の月日が経っているが,未だ完全な形では実現していない.人工心臓はさまざまな分類方法があるが,最も一般的な分類は,ここで述べたように埋め込み方から行う分類であり,「全置換型人工心臓(完全人工心臓),Total Artificial Heart: TAH」「補助人工心臓: ventricular assist device: VAD,またはVentricular Assist System: VAS」の二つに大別される.前者は患者の自身の心臓を取り去り,その部分に人工心臓を埋め込むものであり,後者は患者自身の心臓を残置したまま,左心,右心,またはその両方のポンプ機能を補助する目的で心臓に取付けられるものである.主に疾患の程度によって適応になる方法が変わるが,特に近年になってからは,VASの使用目的が一部変化しており,VASを取り付けることによって,患者本人の心臓のポンプ機能を補助し,心臓の筋肉を休ませることで回復を促すというものがある.その後筋肉が回復すれば再びVASを取り外し一般的な生活をおくれるようになる場合がある. ・南淵 明宏, 心臓は語る, PHP研究所 ・磯村 正, 治せない心臓はない, 講談社 ・東嶋 和子, よみがえる心臓―人工臓器と再生医療, オーム社 ・日本人工臓器学会, 人工臓器は,いま―暮らしのなかにある最先端医療の姿, はる書房 ・許俊鋭, 斎藤明, 赤池敏宏: 人工臓器・再生医療の最先端,

『命と向き合うデザイン』 

 人工心臓−1

末期の重症心不全など,重篤な心疾患に対しては,従来2つの治療が行われてきた.心臓移植手術と人工心臓埋込術である.前者は,他者の心臓を患者に移植する方法であり,心臓の提供者,つまりドナーが必要である.しかし,心臓が健康な状態で生命維持が困難である状態を生体の死と認めることは未だに難しい問題であり,倫理的な課題が多い.また,提供心臓の数が患者の数に対して絶対的に少なく,登録を行ってから,実際に移植手術が行われるまでの時間が非常に長期におよぶ.加えて,心臓そのものが虚血状態に弱い臓器であることも問題である.心臓は,血流を止めて心停止保存液を入れた状態にしてから,移植が行われるまでの時間が4時間を越えると使用できなくなる.そのためドナーと患者の搬送距離が問題になる.一方後者は,人工的に製造された心臓を患者の胸部に埋め込む方法である.埋込方として心臓を取り出して埋め込む方法と,心臓は残したまま補助的な機器を埋め込む方法がある.現在,完全に体内に埋め込むことができる完全人工心臓は開発が成功していないという問題があり世界各地で日々開発が行われている.また,人工臓器だけではなく,他の臓器移植全般にもいえる問題として,移植した生体への適合性に関することがある.他者の心臓や人工心臓を患者に埋め込む場合,受け入れる生体側で拒絶反応が起こることがある.一般的に生体適合性の問題と呼んでいるが,せっかく移植しても適合できない場合,その臓器は取り打さなければいけなくなる.このように後者の人工臓器に関しても未だ問題はあるが,開発が成功した場合,心臓移植手術で生じている問題を,全て回避することができるという点で以前より開発が続けられている. ・南淵 明宏, 心臓は語る, PHP研究所 ・磯村 正, 治せない心臓はない, 講談社 ・東嶋 和子, よみがえる心臓―人工臓器と再生医療, オーム社 ・日本人工臓器学会, 人工臓器は,いま―暮らしのなかにある最先端医療の姿, はる書房 ・許俊鋭, 斎藤明, 赤池敏宏: 人工臓器・再生医療の最先端, 寺田国際事務所/先端医療技術研究所, 2006

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 再生医学と制度−2

2009年の時点で製品化されている再生医療用細胞は皮膚・関節・角膜に限定される.日本では再生医療製品は「ジャパン・ティッシュ・エンジニアリング」の自家培養表皮「ジェイス」が,重症熱傷用治療薬として2007年製造販売承認、2008年薬価収載された1件のみである.それに対して,世界に目を向けるとGenzyme BioSurgery社などは人工皮膚のEpicelと軟骨のCarticelを販売し,人工皮膚および軟骨関連でそれぞれ10以上の製品が販売されている.ここまで見てきたように,再生医学として研究された対象を再生医療製品として実際に医療現場で用いられるためには,いくつかのフェーズが必要である.1)まず,再生医学の研究対象を用いて医師の采配の下,臨床研究を重ね,2)その中から可能性のあるものを製品化し,治験に進める.3)治験を終え,承認された対象は一般的に使用されるため,商品化される必要がある.商品となって初めて薬価収載され,さまざまな医療施設において一般的な患者に使用されることになる.この流れはつまり,研究対象は産業化されなければ医療に活用できる価値を持たないことを意味しており,このこと自体は従来の医薬品や医療機器と同様である.しかし,再生医学ではその価値を持つための販売対象が,従来医療とは異なることになる.従来医療では,製造者は製剤・医療機器そのものを製品として販売しており,その製剤や医療機器が医療機関において目的の機能を果たすことが価値であった.しかし再生医療では,販売対象は製剤そのものではなく,製剤を医療機関内で製造するための医療機器になる.その医療機器が目的の製剤を医療機関内で製造することができて初めて価値を持つことになる. ・中辻憲夫, 中内啓光: 再生医療の最前線2010, 羊土社, 2010 ・土屋利江編, 医療材料・医療機器—その安全性と生体適合性への取り組み—, シーエムシー出版, 2009

『命と向き合うデザイン』 

 再生医学と制度−1

日本では医薬品および医療機器としての承認を得るため,薬事法に則った治験を行い,その有効性と安全性を確認する必要がある.医学において,人を対象とした介入研究は一般的に臨床試験と呼ばれ,その中でも新薬の承認などのために企業が行う臨床試験を治験と呼び,薬事法の第2条第16項には「承認申請において提出すべき資料のうち、臨床試験の使用成績に関する資料の収集を目的とする試験」と規定されている.2002年に薬事法が改正,2003年より試行され,医師・医療機関主導による治験が行いやすくなった.未承認の医薬品・医療機器を適応する方法としては,医師の裁量の下で行われる臨床研究もあり,これは薬事法に則る必要はない.2009年における世界の治験状況を見ると,再生医療が広範な疾患に適応されており,40社程度の企業から100件程度の治験が実施されている.実施件数は増加しているが,必ずしも好成績を収めているわけではない.クローン病に対する骨髄由来間葉系幹細胞製剤の治験は中止になった.その中でも,Geron社(米国カリフォルニア州)は,FDAに治験薬申請していた「ヒトES細胞由来オリゴデンドロサイト前駆細胞 "GRNOPCI" を急性脊髄損傷患者に異所高治療する治験」の承認を獲得し,ヒトES細胞由来細胞を用いたPhase 1臨床研究開始が決定した.技術の未成熟さやビジネスリスクの高さから,新薬開発はベンチャー企業が行う場合が多い.独立行政法人医薬品医療機器総合機構によると新薬の審査期間は米国で平均10ヶ月であるのに対し,日本では平均22ヶ月を必要としている.ベンチャー企業は強固な財務体質を有していないことが多く,審査期間が長期におよぶ場合,企業を維持していくことが困難である.しかし,細胞を利用した生物製剤はウイルスの混入による薬害の問題があるため承認には慎重にならざるを得ないという現実がある. ・中辻憲夫, 中内啓光: 再生医療の最前線2010, 羊土社, 2010 ・土屋利江編, 医療材料・医療機器—その安全性と生体適合性への取り組み—, シーエムシー出版, 2009

『命と向き合うデザイン』 

 細胞シート工学−2

通常、培養皿から細胞を取り出す場合,ディスパーゼなどのタンパク質分解酵素を用いて剥離するため細胞に障害を与える可能性がありました.また温度応答性高分子処理された培養皿を使用する方法では,細胞間結合と細胞自身が発現する接着タンパクのファイブロネクチンやラミニン5を維持したままシートを回収することができます.これらがノリの役目を果たすため回収したシートはそのまま移植する組織の表面などに接着させることが可能です.シート同士も接着できるため細胞シートを積層化することで三次元組織も構築可能です.積層化された組織はそれ自身が産生する細胞外マトリックスのみからなるため生分解性高分子などを用いた足場を使用した際の問題点を回避することができます.細胞シートを用いた再生医学は現在,その領域を広げつつあります.すでに実施されているのは角膜組織・食道粘膜組織・心筋組織に対してです.これらは自己細胞を用いた細胞シートの臨床応用をさらに加速させると言われています.また直に歯周組織・肺組織に対する臨床応用が開始されます.そして,次に肝組織や甲状腺組織における種々の疾患に対する細胞シートの適応拡大が計画されています.例えば、角膜上皮幹細胞疲弊症の患者のうち、眼類天疱瘡やスティーブンス-ジョンソン症候群などの重篤な症例では,免疫抑制剤を併用しても複数回のドナー角膜移植を拒絶した病歴を持つドナー細胞に対して強く免疫拒絶を示す患者がいます。このような症例に対しては,患者本人の口腔粘膜細胞2mm四方から約2週間掛けて角膜上皮細胞シートを培養し,移植する方法がとられており,現在のところ,治療成績は良好です.しかも,培養された細胞シートには細胞外マトリックスが残っているため,移植時に縫合の必要がなく,10分程度で角膜実質に接着されます.また,細胞シートを用いて心筋組織を再生する技術も進んでいます.心筋細胞シートを積層化することで,肉眼で確認できる程度の自律拍動を伴った高い密度の心筋組織を再構築する実験も成功しており,この再生心筋組織を心筋梗塞部へ移植することで心機能が改善することも確認されています. ・阿形清和他: 再生医療生物学, 現代生物化学入門7, 岩波書店, 2009 ・中辻憲夫, 中内啓光: 再生医療の最前線2010, 羊土社, 2010 ・立石哲也, 田中順三: 図解 再生医療工学, 工業